投資の利益と損失を税金面でどう扱うか
株式や投資信託、FXなどの投資を行うと、必ずしも利益ばかりではなく、損失が出る年もあります。投資で赤字になった場合、「損をしたからそこで終わり」と考える方も多いですが、実は税制上は損失を有効に活用する仕組みが用意されています。それが損益通算です。
損益通算を理解し、正しく活用することで、投資全体の税負担を軽減し、手元に残る資金を増やすことが可能になります。個人事業主や中小企業経営者にとっても、資産運用の一環として投資を行う際に欠かせない知識です。
投資家が直面する課題と疑問
損益通算に関して、多くの投資家が次のような疑問を持ちます。
- 株で出た損失は投資信託やFXの利益と相殺できるのか?
- どの金融商品同士で損益通算が可能なのか?
- 赤字を翌年以降に繰り越すことはできるのか?
- 確定申告をしないと損益通算はできないのか?
- 具体的にどんな手続きをすればよいのか?
これらの疑問に答えることが、投資による節税を成功させる第一歩です。
損益通算の結論
結論から言えば、損益通算とは同じ課税区分内で発生した利益と損失を相殺できる仕組みです。
- 株式・投資信託などは「上場株式等に係る譲渡所得等」として同じ区分内で損益通算が可能
- FXは「先物取引に係る雑所得等」として同じ区分のCFDなどと損益通算が可能
- 異なる課税区分(株とFXなど)は通算できない
- 損失が出ても、確定申告をすることで最長3年間繰越控除が利用可能
→ 損をした年こそ確定申告を行うことで、翌年以降の税金を軽減できるのです。
損益通算を理解するべき理由
- 節税につながる:赤字を放置するのと比べ、税額を大幅に抑えられる
- 資産形成を有利に進められる:投資全体の収支を税務面から最適化できる
- リスク管理につながる:損失を戦略的に活用し、翌年以降の投資に備えられる
- 申告漏れのリスクを避けられる:正しく制度を理解して使えば、税務トラブルを回避できる
損益通算の対象となる金融商品
損益通算を活用するには、どの金融商品同士が対象になるのかを理解することが大切です。課税区分ごとに整理してみましょう。
株式・投資信託
- 上場株式、上場投資信託(ETF)、公募株式投資信託などは**同じ課税区分(上場株式等に係る譲渡所得等)**に分類されます。
- この区分内では、利益と損失を相殺できます。
例:株式の売却益100万円と投資信託の損失−80万円 → 課税対象は20万円。
FX・CFD・先物取引
- FX、CFD、日経225先物などは先物取引に係る雑所得等に分類されます。
- この区分内では、利益と損失を通算できます。
例:FXの利益50万円とCFDの損失−40万円 → 課税対象は10万円。
損益通算できない組み合わせ
- 株式とFX:異なる課税区分のため損益通算できない。
- 株式と不動産所得:異なる課税区分であり通算不可。
- 暗号資産(仮想通貨)と株式・FX:暗号資産は「雑所得(総合課税)」に分類されるため、株やFXとは損益通算できない。
課税区分の整理
金融商品の課税区分を表にまとめると以下のようになります。
| 金融商品 | 所得区分 | 損益通算の可否 |
|---|---|---|
| 株式・投資信託(上場) | 上場株式等に係る譲渡所得等 | 同区分内で可能 |
| FX・CFD・先物取引 | 先物取引に係る雑所得等 | 同区分内で可能 |
| 暗号資産 | 雑所得(総合課税) | 不可 |
| 不動産 | 不動産所得 | 所得税法上は他区分と通算可能(一定制限あり) |
| 給与所得 | 給与所得 | 損益通算不可 |
投資家が誤解しやすいポイント
- 「どの投資も一括でまとめて通算できる」と思い込む人が多いが、実際には課税区分ごとに限定されている。
- 暗号資産は「投資商品」ではあるが、税制上は株やFXとまったく別枠であるため注意が必要。
- 通算できない損失は、そのままでは無駄になってしまう。
確定申告の重要性
- 特定口座(源泉徴収あり)を利用している場合でも、損失を繰り越したいなら確定申告が必須。
- 申告しなければ翌年以降の損益通算や繰越控除が利用できない。
損益通算の具体例
実際の数字を使って、損益通算を行うとどのように節税できるのかを見ていきましょう。
例1:株式と投資信託の損益通算
- 株式Aを売却して+100万円の利益
- 投資信託Bを売却して−60万円の損失
- 合計所得:100万円 − 60万円 = 40万円
→ 課税対象は40万円となり、税率20.315%をかけると約8.1万円の税額。
損益通算をしなければ100万円に課税され、約20.3万円の税額となるため、12万円の節税効果。
例2:FXとCFDの損益通算
- FX取引で+50万円の利益
- CFD取引で−40万円の損失
- 合計所得:+10万円
→ 税率20.315%をかけて約2万円の税額。
損益通算をしなければ、50万円に課税されて約10万円の税額となるため、8万円の節税効果。
繰越控除の具体例
同一年で損失を使い切れなかった場合、確定申告を行うことで最長3年間繰り越せます。
例3:株式の大きな損失を翌年以降に活用
- 1年目:株式の損失−150万円
- 2年目:株式の利益+80万円
→ 損失と相殺して課税対象0円(残り−70万円を繰越) - 3年目:株式の利益+60万円
→ 繰越の−70万円と相殺して課税対象0円(残り−10万円を繰越) - 4年目:株式の利益+50万円
→ 繰越の−10万円と相殺して課税対象40万円
→ 確定申告を続けることで、損失を3年間フル活用可能。
繰越控除を活用する際の注意点
- 毎年連続して確定申告が必要:途中でやめると繰越は消滅する。
- 特定口座(源泉徴収あり)でも申告が必要:自動で繰越されるわけではない。
- 配当金と通算するには「申告分離課税」を選択:総合課税を選んだ場合は対象外になる。
シミュレーション表:損益通算・繰越控除の効果
| 年度 | 損益状況 | 損益通算後 | 繰越残額 | 課税対象 |
|---|---|---|---|---|
| 1年目 | −150万円 | −150万円 | −150万円 | 0円 |
| 2年目 | +80万円 | 0円 | −70万円 | 0円 |
| 3年目 | +60万円 | 0円 | −10万円 | 0円 |
| 4年目 | +50万円 | +40万円 | 0円 | +40万円 |
損益通算と繰越控除の効果まとめ
- 損益通算をすれば同一年の利益と損失を相殺できる
- 繰越控除を使えば、翌年以降の利益にも損失を充てられる
- 大きな損失が出ても、制度を活用することで税負担を平準化できる
損益通算・繰越控除を活用するための確定申告手続き
必要書類
- 特定口座年間取引報告書(証券会社が発行)
- 株式等に係る譲渡所得等の計算明細書
- 先物取引に係る雑所得等の金額の計算明細書(FXやCFDの場合)
- 確定申告書B様式
- 損失繰越を適用する場合は前年の申告書控え
申告の流れ
- 年間取引報告書を入手
各証券会社やFX業者からダウンロード。 - 所得を計算
株式・投資信託は譲渡所得等、FXは先物取引に係る雑所得等として集計。 - 損益通算を反映
同じ課税区分内で利益と損失を相殺。 - 繰越控除を適用
繰越損失がある場合は、3年以内の損失を順次控除。 - e-Taxで提出または税務署へ提出
実務に役立つ行動ステップ
- 取引履歴を年ごとに保存・整理しているか確認
- 特定口座年間取引報告書を入手したか
- 損益通算ができる金融商品の組み合わせを理解したか
- 損失がある場合は必ず確定申告をして翌年以降に繰り越しているか
- 会計ソフトや税理士を活用して申告精度を高めているか
まとめ
- 損益通算は、同じ課税区分内の利益と損失を相殺できる制度。
- 株式や投資信託は「上場株式等に係る譲渡所得等」、FXやCFDは「先物取引に係る雑所得等」で通算可能。
- 損失は最長3年間繰り越せるが、確定申告を毎年行うことが条件。
- 確定申告を通じて制度を活用すれば、損失を節税に変え、投資全体の収益を最大化できる。

