株式投資に欠かせない「企業の健康診断」
株式投資を行う際、「株価が上がりそうだから買う」といった感覚的な判断だけでは長期的に安定した成果を得ることは難しいでしょう。特に事業を営む経営者や個人事業主であれば、投資対象の企業を「自分のビジネスを見る目」で評価することが必要です。
そのときに役立つのが ファンダメンタル分析 です。ファンダメンタル分析とは、企業の業績や財務状況といった「本質的な価値」に注目し、株価が割安か割高かを判断する手法です。
株価は「人気」と「実力」で動く
株価は短期的には投資家の心理や市場のニュースに大きく左右されます。しかし長期的には、その企業が生み出す利益や資産といった「実力」に見合った水準へ収束していくのが一般的です。
つまり、短期的な売買でなく長期的な資産形成を目指すなら、企業の本質的な価値=ファンダメンタルズ を理解しておくことが欠かせません。
初心者がつまずきやすいポイント
ファンダメンタル分析は重要である一方、初心者にとっては専門用語が多く、難しく感じやすい分野です。
例えば、株価指標の代表格である PER・PBR・ROE。
- PER(株価収益率)
- PBR(株価純資産倍率)
- ROE(自己資本利益率)
これらを正しく理解できなければ、企業の割安・割高や収益力を判断することはできません。
PER(株価収益率)の基本と見方
PERとは何か?
PER(Price Earnings Ratio:株価収益率)とは、株価がその企業の利益に対してどれだけ評価されているかを示す指標です。
計算式は以下の通りです。 PER=株価÷1株当たり利益(EPS)PER = 株価 ÷ 1株当たり利益(EPS)PER=株価÷1株当たり利益(EPS)
例えば、株価が1,000円で1株当たり利益が100円なら、PERは「10倍」となります。
PERの意味
- PERが 低い → 株価が利益に対して割安(投資家が期待していない可能性)
- PERが 高い → 株価が利益に対して割高(投資家が成長を強く期待している)
つまり、PERは「株価が高いか安いか」を利益ベースで相対的に測る指標です。
PERの目安
一般的に日本株ではPERの平均は 10〜20倍 とされています。
- 10倍未満 → 割安株とされやすい
- 20倍以上 → 成長期待株として評価されやすい
ただし、業種ごとに水準が異なります。たとえば、成熟した銀行や電力会社はPERが低めに出やすく、ITやバイオのように成長期待の高い企業はPERが高くなる傾向があります。
PERの活用法
- 同業他社と比較
同じ業種内でPERを比較することで、相対的に割安な銘柄を見つけられる。 - 過去水準と比較
その企業の過去5〜10年の平均PERと比べて高いか低いかを判断する。
PERの注意点
- 赤字企業には使えない
EPSがマイナスの場合、PERは算出できない。 - 成長性を加味しない
単に「割安」と見えても、利益が減少していれば株価は上がらない可能性がある。
PERの具体例
例えば、同じIT企業A社とB社があるとします。
| 企業名 | 株価 | EPS(1株利益) | PER |
|---|---|---|---|
| A社 | 2,000円 | 200円 | 10倍 |
| B社 | 2,000円 | 100円 | 20倍 |
- A社は利益に対して株価が割安(投資家の期待は控えめ)
- B社は利益に対して株価が割高(将来の成長期待が反映されている)
PERのまとめ
- 株価が「利益に対して高いか安いか」を測る指標
- 一般的には10〜20倍が目安だが、業種によって基準は異なる
- 同業他社や過去の水準と比較して活用することが重要
- 赤字企業や低成長企業には注意が必要
PBR(株価純資産倍率)の基本と見方
PBRとは何か?
PBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率)とは、株価がその企業の「純資産」に対してどの程度の水準で評価されているかを示す指標です。
計算式は以下の通りです。 PBR=株価÷1株当たり純資産(BPS)PBR = 株価 ÷ 1株当たり純資産(BPS)PBR=株価÷1株当たり純資産(BPS)
例えば、株価が1,000円で1株当たり純資産が500円なら、PBRは「2倍」となります。
PBRの意味
- PBRが 1倍未満 → 株価が純資産よりも低く評価されている(解散価値より安い状態)
- PBRが 1倍以上 → 株価が純資産以上に評価されている(将来の成長に期待されている状態)
つまり、PBRは「企業の資産価値に対して株価が割安か割高か」を測る指標です。
PBRの目安
一般的に、日本株の平均PBRは 1〜1.5倍前後 と言われています。
- 1倍未満 → 割安株とされやすい
- 1.5倍以上 → 成長企業や高評価企業
PBRの活用法
- 安全性の確認
資産に比べて株価が極端に低い場合、倒産リスクを考慮した「市場の警戒感」が反映されていることがある。 - 割安株投資の目安
PBR1倍未満の企業は「資産より安い」として注目されることが多い。
PBRの注意点
- 資産の質を考慮する必要がある
不動産や現金のように換金性の高い資産なら安心材料だが、売れない在庫や将来性のない設備などが多いと意味が薄れる。 - 成長性を反映しない
純資産が大きくても利益を生み出せない企業は、投資妙味が小さい。
PBRの具体例
例えば、同じ製造業のC社とD社を比較します。
| 企業名 | 株価 | BPS(1株当たり純資産) | PBR |
|---|---|---|---|
| C社 | 1,000円 | 1,200円 | 0.83倍 |
| D社 | 1,000円 | 500円 | 2.0倍 |
- C社は「資産価値よりも安い」ため割安株とみなされる可能性が高い
- D社は資産価値以上に評価されているが、その分成長期待も大きい
PBRのまとめ
- 株価が「資産価値に対して高いか安いか」を測る指標
- 1倍未満は割安とされやすいが、資産の質や収益性を見極める必要あり
- 割安株投資の候補として注目されやすいが、業績不振企業に多い点に注意
ROE(自己資本利益率)の基本と見方
ROEとは何か?
ROE(Return on Equity:自己資本利益率)とは、企業が株主から預かった資本をどれだけ効率的に利益へ変えているかを示す指標です。
計算式は以下の通りです。 ROE=当期純利益÷自己資本×100ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100ROE=当期純利益÷自己資本×100
例えば、自己資本が100億円で当期純利益が10億円なら、ROEは「10%」となります。
ROEの意味
- 高いROE → 少ない資本で効率よく利益を稼いでいる
- 低いROE → 資本を活かしきれていない
ROEは「経営の効率性」を測る重要な指標であり、投資家にとっては企業の収益力を判断する基準となります。
ROEの目安
一般的には、ROEが 8〜10%以上 であれば優良企業とされます。
- 10%超 → 資本を効率的に活用している成長企業
- 5%未満 → 効率性が低く、改善の余地が大きい
ROEの活用法
- 収益性の比較
同業他社とROEを比較することで、どの企業が効率的に利益を生み出しているかがわかる。 - 成長性の確認
ROEが安定的に高い企業は、中長期投資に向いている。
ROEの注意点
- 一時的な利益に左右されやすい
特別利益などで一時的にROEが上がるケースがある。 - 負債の影響を受ける
借金を増やすと自己資本比率が下がり、見かけ上ROEが高くなることもある。
PER・PBR・ROEを組み合わせた分析
PER・PBR・ROEは単独で使うのではなく、組み合わせて活用することで精度が高まります。
| 指標 | 確認できること | 主な役割 |
|---|---|---|
| PER | 利益に対する株価の割安・割高 | 成長性の評価 |
| PBR | 純資産に対する株価の割安・割高 | 安全性・資産価値 |
| ROE | 株主資本を使った利益の効率性 | 収益性・経営効率 |
例えば、PERが低く、PBRも1倍未満、かつROEが高い企業 は「割安かつ効率的に利益を稼げる企業」と判断され、投資対象として有力です。
投資初心者が実践するためのステップ
- 気になる銘柄の決算書を確認する
証券会社アプリや四季報で数値を調べる - PER・PBR・ROEを計算・比較する
同業他社と並べて評価する - 異常値が出た場合は理由を調べる
赤字や一時的要因がないか確認する - 少額投資で試す
実際に株を持ち、数字の変化を追うことで理解が深まる
まとめ:ファンダメンタル分析で投資の軸を作る
PER・PBR・ROEは、ファンダメンタル分析の基本中の基本です。
- PER:利益と株価のバランスを見る
- PBR:資産価値と株価のバランスを見る
- ROE:資本の効率性を見る
これらを組み合わせて理解すれば、株式投資において「割安かつ成長性のある企業」を見つけることができます。
数字は単なる計算結果ではなく、「企業の健康診断の結果」として捉え、冷静に判断する習慣を身につけましょう。

