投資と相続税の基礎知識|株や投資信託を相続する際の評価と課税の仕組み

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目次

投資と相続が重なる場面とは?

株式や投資信託は、多くの経営者や個人事業主にとって資産形成の重要な手段です。事業の余剰資金を効率的に運用したり、将来の備えとして投資信託に積み立てたりするケースは少なくありません。しかし、いざ相続の場面になると「これらの金融資産がどのように評価され、相続税の課税対象になるのか」という問題が浮かび上がります。

不動産や預貯金と違い、株や投資信託は「価格が日々変動する資産」であるため、評価方法が分かりにくく、課税額にも大きな影響を及ぼします。そのため、事前に正しい知識を持ち、相続対策を講じておくことが重要です。

なぜ株や投資信託の相続は注意が必要か

相続税は、相続開始時(被相続人が亡くなった日)における資産の評価額をもとに計算されます。株式や投資信託の場合、この「評価額の算定方法」が非常に重要になります。

  • 株価は日々変動するため、評価の基準日によって課税額が変わる
  • 上場株式と非上場株式では評価ルールが大きく異なる
  • 投資信託は種類によって評価方法が分かれる
  • 評価の結果によっては多額の相続税が発生する可能性がある

経営者や個人事業主にとっては、事業資金や生活資金と切り離せない部分でもあり、資産全体のバランスを考えた相続対策が欠かせません。

株式や投資信託を相続するときの基本的な評価ルール

ここで、まず株や投資信託が相続財産となる場合の評価ルールを整理しておきましょう。

上場株式の評価方法

上場株式の相続税評価額は、次のいずれかの価格で最も低いものを採用します。

  • 相続開始日の終値
  • 相続開始月の毎日の終値の平均
  • 相続開始月の前月の終値の平均
  • 相続開始月の前々月の終値の平均

つまり、被相続人が亡くなった日の株価が高かったとしても、直近3か月間の平均株価を使うことで評価額を抑えられる可能性があります。

非上場株式の評価方法

非上場株式は、会社の規模や事業内容に応じて以下の方式で評価されます。

  • 類似業種比準価額方式(同業他社の株価などを参考に算定)
  • 純資産価額方式(会社の資産から負債を差し引いて評価)
  • これらの併用

中小企業のオーナー経営者にとっては、この評価額が事業承継税制の活用可否にも直結するため、事前準備が特に重要です。

投資信託の評価方法

投資信託は、基本的に「相続開始日における基準価額 × 口数」で評価します。ただし、再投資型や分配金再投資コースの場合には、評価額の算定に注意が必要です。


相続で起こりやすい問題点

相続人や遺族にとって、株や投資信託の相続には以下のような問題が起こりやすいです。

  • 株価の変動によって、評価額と実際に換金した額が大きく異なる
  • 上場株式は分割しやすいが、非上場株式は分けにくく、相続人同士の争いに発展しやすい
  • 投資信託の仕組みを理解していない相続人がいると、手続きが遅れる
  • 多額の相続税が発生し、納税資金の確保が難しくなる

特に中小企業の経営者の場合、会社の株式や事業資産も同時に相続の対象となるため、全体の資産構成を考えた対策が必要です。

株や投資信託を相続するときの課税の仕組み

株式や投資信託が相続財産に含まれる場合、相続税は次の流れで計算されます。

  1. 相続財産の評価額を算出する
  2. 基礎控除額を差し引く
    • 基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
  3. 課税価格をもとに相続税の総額を計算する
  4. 各相続人の取得分に応じて相続税を按分する

例えば、上場株式を1,000万円分、投資信託を500万円分相続した場合は、それぞれの評価額を合算し、他の財産(不動産や預金など)と合わせて相続税額を決定します。

相続税の税率と控除

相続税の税率は累進課税で、以下のように取得額に応じて変わります。

課税価格(取得金額)税率控除額
1,000万円以下10%0円
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

株や投資信託の評価額が高額になるほど、税率も一気に上がっていきます。特に株式を大量に保有している経営者の場合、相続税額が数千万円〜数億円規模になることも珍しくありません。


株や投資信託の相続で税負担が大きくなる理由

株や投資信託を相続する場合、特に注意が必要な理由を整理してみましょう。

1. 評価額が「時価」で決まる

預金は額面通りで評価されますが、株式や投資信託は「時価」で評価されます。つまり、相続時点の株価や基準価額によって課税額が変動します。

  • 株価が高騰している時期に相続 → 相続税が高額になる
  • 株価が下落している時期に相続 → 相続税が抑えられる

これは納税資金の準備に直結するため、タイミングによる影響は大きいといえます。

2. 換金しないと納税資金を確保できない

相続税は現金での納付が原則です。株や投資信託をそのまま相続しても、納税資金が足りなければ売却せざるを得ない状況に陥ります。結果として「高値で評価された資産を、株価が下がった後に売却する」という不利な状況が起こり得ます。

3. 相続人間での分割トラブル

現金や不動産に比べ、株式や投資信託は分割方法に悩む資産です。

  • 株式は「端数が出やすい」
  • 投資信託は「運用方法を巡って意見が割れる」

といった理由から、相続人同士のトラブルに発展するケースも少なくありません。


課税リスクを減らすための基本的な考え方

では、株や投資信託を相続する際、どのように課税リスクを抑えればよいのでしょうか。基本的な考え方を整理します。

  1. 評価額を把握しておく
    定期的に資産の時価を確認し、相続税が発生した場合の試算を行っておくことが重要です。
  2. 生前贈与を活用する
    毎年110万円までの贈与税非課税枠を使えば、少しずつ資産を移すことが可能です。教育資金贈与や住宅取得資金贈与の特例を活用できる場合もあります。
  3. 相続税対策の仕組みを理解する
    ・相続時精算課税制度
    ・小規模宅地等の特例(不動産の場合)
    ・事業承継税制(非上場株式の場合)
    といった制度の活用余地を確認しておくことも欠かせません。
  4. 納税資金を準備しておく
    相続が発生したときに現金で納税できるよう、生命保険や換金しやすい資産を用意しておくのが安心です。

株式や投資信託を相続した場合の具体例

相続税の仕組みや評価方法を理解した上で、実際のケースを想定するとイメージがつかみやすくなります。ここでは代表的な事例をいくつか取り上げ、相続税の計算や注意点を見ていきましょう。


事例1:上場株式を相続するケース

ある経営者が亡くなり、遺族が上場株式を相続したケースを考えます。

  • 相続開始日の終値:1株あたり5,000円
  • 直近3か月の平均株価:1株あたり4,800円
  • 保有株数:2,000株

この場合、評価額は 4,800円 × 2,000株 = 960万円 となります。
相続開始日の株価(5,000円)ではなく、より低い平均株価(4,800円)を採用することで、相続税評価額を抑えられるのがポイントです。


事例2:投資信託を相続するケース

投資信託は、相続開始日の基準価額で評価します。

  • 基準価額:12,000円
  • 保有口数:500口

評価額は 12,000円 × 500口 = 600万円 です。
分配金再投資型の場合には、既に再投資された分も含めて評価額が算定されるため、実際の投資額以上の評価となることもあります。


事例3:非上場株式を相続するケース

中小企業を経営していた被相続人の株式を相続する場合です。
評価方法は「類似業種比準価額方式」と「純資産価額方式」があります。

仮に以下の条件とします。

  • 純資産価額方式での評価:1株あたり2,000円
  • 類似業種比準価額方式での評価:1株あたり1,500円
  • 発行済株式数:10,000株(すべてを被相続人が保有)

この場合、評価方法によって 2,000万円〜1,500万円 の差が出ることになります。
さらに、事業承継税制を活用できれば、この評価額に対する相続税が猶予または免除される可能性もあります。


ケース別の比較表

資産の種類評価方法の基準具体的な評価額の算定例
上場株式相続開始日または直近3か月平均の株価4,800円 × 2,000株 = 960万円
投資信託相続開始日の基準価額12,000円 × 500口 = 600万円
非上場株式類似業種比準価額方式/純資産価額方式1,500〜2,000万円

このように、資産の種類や評価方式によって相続税額は大きく変わります。事前に把握しておくことで、納税資金の準備や相続対策を計画的に進めることが可能です。


相続時に生じやすい実務上の課題

実際の相続手続きにおいては、評価額の算定以外にも以下のような課題が生じやすいです。

株式の分割が難しい

上場株式であれば端株制度や単位未満株の売却で分割可能ですが、非上場株式の場合は相続人間で分割が難しく、「誰が経営権を握るか」で争いになりやすいのが特徴です。

投資信託の相続手続きに時間がかかる

投資信託は証券会社や銀行を通じて相続手続きを行いますが、必要書類が多く、相続人全員の同意や実印が必要になるケースもあります。相続発生から納税期限(10か月)までに時間が限られているため、迅速な対応が求められます。

株価変動リスクと納税資金

相続税評価額が高くなった時期に相続が発生すると、多額の税額が確定します。しかし、その後に株価が下落しても相続税は減額されません。結果として「評価額は高いのに、換金すると実際の手取りは少ない」という矛盾が生じます。


シミュレーション:相続税額の違い

実際に、株価の変動によって相続税額がどれだけ変わるかシミュレーションしてみましょう。

  • 相続人:配偶者1人、子ども2人(計3人)
  • 基礎控除額:3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
  • 他の財産:不動産3,000万円、預貯金2,000万円
  • 株式:相続開始日の株価で評価した場合 5,000万円

合計財産は 1億円(3,000万円 + 2,000万円 + 5,000万円)
基礎控除額4,800万円を引くと、課税価格は5,200万円となります。

相続税総額は速算表に基づいて計算すると 約620万円
もし株価が下がり、株式の評価額が4,000万円であれば、課税価格は4,200万円となり、基礎控除内に収まるため相続税はゼロになります。

このように、株価の変動は相続税額に大きな影響を与えます。

株や投資信託の相続に備えて取るべき行動

株や投資信託の相続は、評価額の変動や納税資金の準備など、想定以上に複雑です。経営者や個人事業主が安心して事業や生活を次世代へ引き継ぐためには、以下の行動を早めに取ることが重要です。


1. 定期的に資産状況を把握する

  • 株や投資信託の評価額を、相続が発生した場合のシミュレーションで確認しておく
  • 保有証券の銘柄・口数・評価額を一覧化しておく
  • 遺族が把握しやすいよう、エクセルや専用アプリで「資産管理台帳」を作成しておく

これにより、相続時に「どの資産がどれだけあるのか分からない」という混乱を防げます。


2. 生前贈与を計画的に活用する

  • 暦年贈与(年間110万円まで非課税)を利用し、少しずつ資産を移す
  • 教育資金贈与・結婚子育て資金贈与などの特例制度を検討する
  • 贈与税と相続税の一体的なシミュレーションを行う

特に投資信託は分割しやすいため、子どもや孫に早めに移しておくことで、相続税の負担を減らす効果が期待できます。


3. 納税資金の準備を進める

  • 生命保険を活用して、死亡時に相続人が現金を受け取れるようにする
  • 換金しやすい資産を確保しておく(定期預金、解約可能な投資信託など)
  • 延納や物納の制度もあるが、事業承継に悪影響を与える可能性があるため注意

「相続税は発生するけれど、現金が足りない」という事態を避けるためには、資産全体のバランスを考えておくことが大切です。


4. 事業承継税制の活用を検討する

中小企業の非上場株式については、事業承継税制を使うことで相続税が猶予される制度があります。条件を満たせば、最終的に税金が免除されるケースもあるため、経営者は必ず検討しておきたい制度です。


5. 専門家に相談する

相続に関する税務は複雑で、最新の税制改正や制度の適用条件を正しく理解する必要があります。

  • 税理士にシミュレーションを依頼する
  • 司法書士や弁護士と連携して、遺言や株式の承継方法を検討する
  • ファイナンシャルプランナーと一緒に資産管理を見直す

こうした専門家のサポートを受けることで、家族にとって最適な相続対策を実現できます。


まとめ:投資資産の相続は「早めの準備」が最大の節税策

株や投資信託を相続するときは、評価額が時価で決まるため、想定以上の相続税が発生するリスクがあります。また、納税資金の確保や遺族間の分割方法など、実務上の課題も多く存在します。

そのため、経営者や個人事業主にとっては、

  • 資産の「見える化」
  • 贈与や生命保険の活用
  • 専門家への相談

といった対策を早めに進めることが、家族を守る最善の方法です。

相続は突然訪れるものです。今日からでも一歩を踏み出し、資産を安心して次世代につなげる準備を始めましょう。

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