法人で投資する場合の税金とは?個人投資との違いとメリット・デメリットを徹底解説

法人で投資する場合の税金と個人投資の違いを表現したイラスト。グラフ、コイン、ビジネスバッグ、税金書類を組み合わせたデザイン。
目次

法人で投資するという選択肢

投資といえば、一般的には個人投資家が株式や投資信託を保有するイメージが強いかもしれません。しかし近年は、中小企業や法人が余剰資金を活用して投資を行うケースも増えています。特に低金利環境やインフレ懸念の中で、資産を現金で寝かせるよりも運用に回した方が有効だと考える経営者も多いでしょう。

ただし、法人で投資する場合と個人で投資する場合では、税金のルールが大きく異なる点に注意が必要です。同じ株式投資や不動産投資であっても、課税方法や控除の仕組みが違うため、結果的に手取りや節税効果に大きな差が出ます。


法人投資と個人投資の税金の違いとは?

法人と個人では、投資から得られる収益に対して課される税金の種類や計算方法が異なります。

  • 個人投資の場合
    株式の売却益や配当は「申告分離課税」で**20.315%(所得税+住民税)**の税率が一律で適用されます。損失が出た場合は3年間の繰越控除も可能です。
  • 法人投資の場合
    売却益や配当は「法人税等(法人税+住民税+事業税)」の課税対象となります。法人税率は中小法人なら実効税率約30%前後、大企業ならさらに高くなることもあります。ただし、配当については「受取配当金益金不算入制度」により一定割合を課税対象から除外できます。

この違いを正しく理解しておかないと、想定以上の税負担が生じたり、節税の機会を逃してしまう恐れがあります。


なぜ法人投資と個人投資で課税ルールが異なるのか

両者の課税ルールが異なるのは、そもそも「収益の性質」と「課税体系」が違うからです。

  • 個人は所得税ベース
    給与所得・事業所得・配当所得などを合算して課税されます。投資利益は独立した区分(申告分離課税)で扱う仕組みです。
  • 法人は法人税ベース
    営業収益・投資収益などを合算して利益を算出し、法人税が課されます。投資はあくまで法人活動の一部とみなされ、事業と同じ枠組みで処理されます。

そのため、法人では投資収益も含めて全体の損益計算に組み込まれ、税務上の調整項目や控除制度を活用できるかどうかがポイントになります。


課税ルールを誤解すると起こりうるリスク

法人投資と個人投資の違いを理解せずに投資を行うと、以下のようなリスクがあります。

  • 法人税率の高さを見落とす
    個人の20.315%に比べて、法人では30%前後の実効税率になることもあり、結果的に税負担が増える場合があります。
  • 配当控除を誤認識する
    個人では配当控除を使える場合がありますが、法人では代わりに受取配当金益金不算入制度を使うため、制度の違いを理解していないと申告ミスに。
  • 損益通算の考え方を混同する
    個人では投資損益の通算範囲が限定されますが、法人では事業損益と通算できます。仕訳や決算で誤ると税務調査の指摘を受ける可能性があります。

法人で投資する場合の課税ルールの特徴

法人投資の最大のポイントは、投資収益も事業収益と同じように「益金」に算入されるという点です。つまり、株式の売却益や配当金も、通常の営業収益と合算されて法人税等の課税対象となります。

法人税の基本構造

法人が納める税金は「法人税」「法人住民税」「法人事業税」など複数の税目で構成されます。これらを合算したものを「実効税率」と呼び、中小法人でおおむね約30%前後が目安です。

  • 法人税:国に納める税金(所得に対して課税)
  • 法人住民税:地方自治体に納める税金(法人税額や均等割に基づく)
  • 法人事業税:事業活動に基づいて課される税金(所得割が中心)

個人投資のように単純な20.315%の一律課税とは異なり、法人では複数の税が組み合わさって課税される点が大きな違いです。


個人投資との比較

法人と個人の課税の違いを整理した表を以下にまとめます。

項目個人投資法人投資
売却益の課税申告分離課税20.315%法人税等の課税対象(約30%前後)
配当金の課税配当所得(申告分離20.315% or 総合課税+配当控除)受取配当金益金不算入制度で一定割合を益金不算入
損益通算株式の譲渡損益や配当と通算可能(一定範囲)事業所得と通算可能
損失の繰越3年間繰越控除可能最長10年間繰越控除可能
税務申告確定申告(特定口座なら省略可)法人税申告(決算処理必須)

この表からも分かる通り、法人投資は税務処理が複雑ですが、その分メリットも存在します。


受取配当金益金不算入制度の概要

法人が受け取る配当金は、そのまま課税すると二重課税(二重の法人課税)が生じてしまいます。これを調整するために設けられているのが受取配当金益金不算入制度です。

制度の仕組み

  • 法人が他社株式を保有して配当を受け取った場合、その一部または全部を益金不算入(課税対象外)とできる
  • 保有割合によって不算入の割合が変わる

不算入割合の目安

保有割合不算入割合
1/3超100%益金不算入
5%超~1/3以下50%益金不算入
5%以下20%益金不算入(上場株式など)

この制度により、法人が戦略的に株式を保有するメリットが生まれます。特に安定株主として長期保有する場合には、実効税率を抑える効果が期待できます。


法人投資のメリットとデメリット

法人で投資を行うことには、個人投資にはないメリットとデメリットがあります。

メリット

  • 損失を事業所得と通算できる
  • 損失の繰越控除が最長10年間可能
  • 配当金に対して益金不算入制度を利用できる
  • 法人税の節税スキームとして活用できる場合がある

デメリット

  • 実効税率が個人投資より高くなりやすい
  • 決算・申告が複雑になり、専門的な会計処理が必要
  • 中小法人の場合でも均等割などの税金が必ず発生するため、赤字でも負担がある

売却益と配当金のケーススタディ

法人投資と個人投資で、同じ条件でも税額に差が出ることをシミュレーションしてみましょう。

ケース1:株式を売却して100万円の利益が出た場合

  • 個人投資の場合
    株式の譲渡益は申告分離課税で一律20.315%。 100万円 × 20.315% = 203,150円(納税額) → 手取り:約796,850円
  • 法人投資の場合(中小法人を想定)
    売却益は益金に算入され、法人税等(実効税率30%前後)が課税。 100万円 × 30% = 300,000円(納税額) → 手取り:約700,000円

比較結果:個人投資の方が有利
法人税率が高いため、単純に売却益だけを比較すると個人の方が税負担が軽い。


ケース2:配当金100万円を受け取った場合

  • 個人投資の場合
    配当は申告分離課税(20.315%)または総合課税+配当控除を選択。 100万円 × 20.315% = 203,150円 → 手取り:約796,850円
  • 法人投資の場合(持株比率5%以下を想定)
    受取配当金益金不算入制度で20%が不算入対象。 課税対象:100万円 × 80% = 80万円 法人税等:80万円 × 30% = 240,000円 → 手取り:約760,000円

比較結果:条件によって有利不利が変動
保有割合が大きくなれば益金不算入割合も増えるため、法人の方が有利になるケースもある。


個人と法人での納税額シミュレーション

投資利益(利益額100万円の場合)個人投資法人投資(中小法人・実効税率30%)
株式売却益203,150円(20.315%課税)300,000円(30%課税)
配当金(保有5%以下)203,150円240,000円(益金不算入20%適用)
配当金(保有1/3超)203,150円0円(益金不算入100%)

この表からもわかる通り、法人投資では「保有割合」や「益金不算入の適用率」によって税額が大きく変わります。


節税につながる具体的な活用法

1. 損益通算で事業と投資を一体管理

法人では投資の損失を事業利益と通算できるため、利益調整に活用可能。

  • 例:本業で黒字1,000万円、株式投資で損失200万円 → 課税所得は800万円に減少。

2. 損失の繰越控除を長期活用

法人は最長10年間の繰越控除が可能。投資で赤字になっても将来の黒字と相殺できる。

3. 配当金の益金不算入制度を活用

保有割合を意識することで、配当金にかかる税負担を軽減可能。

  • 長期的に取引先株式を持つ場合などは特に有効。

4. 法人化による資産保全

個人投資では資産が個人財産と一体化してしまうが、法人投資にすれば法人格で分離され、リスク分散にもなる。

法人で投資する際の具体的行動ステップ

1. 投資目的を明確にする

  • 資産運用による余剰資金の効率化か
  • 取引先との関係強化か
  • 長期安定株主としての地位確保か

目的によって、投資対象や税務上のメリット・デメリットが変わります。

2. 税務シミュレーションを行う

  • 売却益・配当金がどの程度発生するかを試算
  • 法人税率と益金不算入制度を適用した場合のシナリオを比較
  • 個人投資との税負担の差も確認

3. 会計処理と帳簿管理を徹底する

  • 投資収益は「営業収益」と同様に益金計上
  • 株式の評価損益は決算に反映
  • 優待や配当金も正しく仕訳する

4. 損益通算・繰越控除を活用する

  • 法人は損失を最長10年間繰り越せる
  • 事業利益との通算で課税所得を抑えることが可能

5. 専門家に相談する

  • 税理士に相談し、最適な法人投資スキームを構築
  • 特に不動産や海外投資を絡める場合は専門性が求められる

法人投資における注意点と失敗事例

よくある失敗例

  • 実効税率を見落とし、結果的に税負担が増える
  • 益金不算入制度を誤解して申告漏れをする
  • 帳簿管理を怠り、税務調査で否認される
  • 資金繰りを考えずに投資を行い、納税資金が不足する

防止策

  • 事前にシミュレーションを行う
  • 投資対象の性質を正確に把握する
  • 税理士と定期的に打ち合わせを行い、処理を確認する

記事のまとめ

  • 法人投資と個人投資では税金のルールが大きく異なる
  • 個人は一律20.315%の申告分離課税、法人は法人税等で約30%前後が目安
  • 配当金については法人なら益金不算入制度があり、保有割合次第で有利になる
  • 法人は損益通算や10年の繰越控除が可能で、節税の余地も大きい
  • 一方で申告や会計処理は複雑で、誤るとリスクが高いため専門家のサポートが欠かせない
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