副業と投資が当たり前になった時代
働き方改革やリモートワークの普及により、副業を始める人が増えています。その中でも「副業投資」は、時間や場所に縛られずに取り組める手段として注目を集めています。株式投資や投資信託、暗号資産、不動産クラウドファンディングなど、少額から始められる商品も多く、多忙な経営者や個人事業主にとっても資産形成の一環として取り入れやすいのが特徴です。
しかし、副業として投資を行う場合に必ず意識しなければならないのが「税金」と「確定申告」です。特にサラリーマンや事業所得を持つ人にとって気になるのが、「20万円ルール」という言葉です。このルールを正しく理解しないと、「確定申告しなくても大丈夫だろう」と思い込んで、後から税務署に指摘されるリスクを抱えることになります。
「20万円ルール」とは何か
多くの投資家が耳にする「20万円ルール」とは、給与所得者の副収入が20万円以下であれば確定申告が不要になるという取り扱いを指します。これは、会社員や給与所得がメインの人を対象とした特例的な取扱いであり、個人事業主や年金受給者には必ずしも適用されません。
例えば会社員が副業で株式投資を行い、その1年間の利益(給与以外の所得)が20万円を超えなければ、確定申告は不要とされています。ただしこれは「税金を払わなくてよい」という意味ではなく、あくまで「確定申告という手続きを省略できる」という点に注意が必要です。
よくある誤解と落とし穴
「20万円以下なら確定申告しなくてもよい」と聞くと、多くの人は安心してしまいます。しかし、実際には次のような誤解やリスクが存在します。
- 住民税は申告が必要
20万円ルールは所得税の確定申告に限られるため、住民税の申告は別途必要です。市区町村に申告しなければ、課税漏れと見なされる可能性があります。 - 副収入の種類によって扱いが違う
株式や投資信託の譲渡益、配当所得、暗号資産の利益など、収入の種類ごとに申告要否が異なります。 - 事業所得には適用されない
副業としての事業収入(フリーランスやネットビジネスなど)は、たとえ20万円以下でも申告が必要です。 - 損益通算や繰越控除ができなくなる
申告をしない場合、株式や投資信託で損失が出ても翌年以降に繰り越すことができず、節税の機会を失います。
経営者や個人事業主が特に注意すべき理由
副業投資に取り組む経営者や個人事業主にとっては、「20万円ルール」を安易にあてはめることは危険です。
- すでに確定申告が必要な立場のため、投資収入も合わせて申告しなければならない
- 事業の経費や収益と混在しやすく、申告漏れのリスクが高まる
- 税務署は副業投資に関する情報を証券会社や金融機関から把握しているため、申告漏れは容易に発覚する
つまり、20万円ルールは「一部の給与所得者」にしか使えない限定的な仕組みであり、ほとんどの個人事業主や経営者には適用されないのです。
20万円ルールの正しい位置づけ
「20万円ルール」とは、あくまで給与所得者に限った確定申告の省略ルールであり、すべての副業投資家に当てはまるわけではありません。
- 対象者:主たる収入が給与で、年末調整を受けている人
- 条件:給与以外の所得(投資収入・副業収入など)が20万円以下
- 効果:所得税の確定申告が不要になる(ただし住民税の申告は必要)
つまり、「税金が免除されるわけではなく、確定申告という手続きを省略できるにすぎない」という点を正しく理解する必要があります。
申告が必要となる具体的なケース
以下のような場合には、20万円ルールがあっても申告が必要になります。
1. 個人事業主・経営者の場合
- すでに事業所得があり確定申告をする立場にある
- 投資収入も含めて申告する必要がある
→ 20万円ルールは適用不可。
2. 年末調整を受けていない給与所得者
- 副業で複数の勤務先から給与を受け取っている
- 年末調整が一部の会社でしか行われていない
→ 20万円以下でも申告が必要。
3. 住民税の申告が必要な場合
- 所得税は申告不要でも、住民税は必ず申告する必要がある
- 特に配当所得や譲渡所得は、市区町村に申告しないと課税漏れ扱いになる
4. 医療費控除や住宅ローン控除を受ける場合
- 医療費控除・住宅ローン控除(2年目以降)など、確定申告が必要な場合は副収入が20万円以下でも合わせて申告しなければならない。
申告不要にしてはいけない理由
投資収入が20万円以下であっても、あえて確定申告をした方が有利な場合があります。
- 損益通算ができる
株式や投資信託で損失が出た場合、確定申告することで給与所得や他の所得と通算できる場合がある。 - 繰越控除が使える
株式の譲渡損失は最長3年間繰り越して翌年以降の利益と相殺できるが、これは申告しなければ適用されない。 - 配当控除が使える
上場株式の配当を総合課税で申告すると、一定の控除を受けて税率を下げられる可能性がある。
20万円ルールが誤解されやすい理由
1. 「税金がかからない」と思い込んでしまう
「確定申告が不要」と聞くと、多くの人が「税金を払わなくてよい」と誤解してしまいます。実際には、20万円以下であっても住民税の申告は必要であり、課税そのものが免除されるわけではありません。
2. 情報が断片的に広まっている
ネット記事やSNSで「20万円以下なら申告不要」とだけ紹介されることが多く、条件や例外が正しく説明されていないため、誤解が広がりやすいのです。
3. 投資収入の種類による違いが複雑
- 株の配当所得
- 株式や投資信託の譲渡所得
- 暗号資産の雑所得
など、投資収入には複数の種類があり、それぞれ課税方式や申告要否が異なります。この複雑さが、誤解を助長しています。
申告不要と誤解した場合に起きる問題
住民税の未申告で指摘を受ける
確定申告を省略できても、住民税の申告を忘れると、税務署や市区町村から「課税漏れ」として問い合わせが来る可能性があります。証券会社や金融機関から税務署に取引情報が通知されているため、発覚は避けられません。
損益通算・繰越控除が使えなくなる
確定申告を行わないと、投資で損失が出た場合にその損失を他の利益と相殺できません。さらに翌年以降に利益が出ても、過去の損失を繰り越して差し引くことができないため、税金を余分に払うことになります。
税制優遇を逃す
確定申告をすることで受けられる税制優遇(配当控除、住宅ローン控除、医療費控除など)を利用できなくなる場合があります。
税務調査のリスク
少額でも未申告を繰り返すと、税務署から「意図的な申告漏れ」と判断される可能性があります。悪質と見なされると、加算税や延滞税が課されることもあります。
経営者や個人事業主が特に注意すべき理由
- 確定申告が必須の立場 → 事業所得と一緒に投資所得も申告しなければならない
- 資金管理が複雑化 → 事業資金と投資資金が混在し、申告漏れが生じやすい
- 税務署からチェックされやすい → 事業者は投資も含めた資産管理状況を見られる
このため、経営者や個人事業主は「20万円ルール」という言葉に惑わされず、基本的にはすべての投資収入を申告する前提で考えた方が安全です。
副業投資における具体的なシミュレーション
事例1:給与所得者の株式投資
- 本業:サラリーマン(年収500万円、年末調整済み)
- 副業投資:株式の譲渡益 18万円、配当所得 4万円
→ 合計22万円の所得(源泉徴収なし)。
20万円ルールの対象外となり、確定申告が必要。
もし「18万円だけ」と誤解して申告を省略すると、住民税の申告漏れや加算税リスクが発生する。
事例2:個人事業主が副業投資をしている場合
- 本業:フリーランス(すでに確定申告を行う立場)
- 副業投資:株式配当 15万円
→ 個人事業主は20万円ルールが使えないため、必ず申告対象。
事業所得と合算して確定申告を行う必要がある。
事例3:損益通算を利用するケース
- 本業:給与所得者
- 副業投資:株式売却益 10万円、別の銘柄で損失 −30万円
→ 売却益は20万円以下なので申告不要と考えがちだが、損失を申告すれば翌年以降の利益と相殺できる。
確定申告をした方が有利。
副業投資をする人が取るべき行動ステップ
1. 収入の種類を整理する
- 配当所得
- 譲渡所得
- 雑所得(暗号資産など)
収入の種類ごとに課税方式が異なるため、証券会社や取引所の年間取引報告書を活用し整理する。
2. 「20万円ルール」を過信しない
- 給与所得者以外(自営業・経営者)は対象外
- 住民税は必ず申告が必要
- 控除や優遇を受けるなら積極的に申告した方が得
3. 確定申告で節税を狙う
- 損益通算で利益と損失を相殺
- 繰越控除で翌年以降の利益を圧縮
- 配当控除で配当課税を軽減
4. 税務リスクを避ける
- 無申告を繰り返すと加算税や延滞税が課される
- 税務署は証券会社・取引所から取引情報を把握しているため、隠し通すのは不可能
5. 専門家に相談する
- 税理士にシミュレーションを依頼して最適な申告方法を確認
- 特に経営者や個人事業主は、事業所得と投資所得を統合して申告する必要があるため、専門家のアドバイスが有効
まとめ:副業投資と確定申告は「20万円ルール」に惑わされない
副業投資を行う人にとって、「20万円ルール」は一見便利な制度に見えます。しかし実際には、
- 給与所得者だけが対象
- 住民税の申告は必要
- 事業者や経営者には適用されない
という限定的な仕組みです。むしろ確定申告を積極的に行った方が節税につながるケースも多くあります。
副業投資で失敗しないためには、「20万円ルール」を鵜呑みにせず、正しく理解して申告を行うことが何より重要です。

